仕組みで育てるトップ営業 500名規模の営業組織を持つ、セレブリックス社の実践法 中編
多くの企業で営業組織のメンバーを育成するための工夫をしていると思いますが、より有効な方法を具体的に知りたい方も多いのではないでしょうか。
今回は、さまざまな会社の営業支援を行っている株式会社セレブリックスより執行役員 カンパニーCMO兼セールスエバンジェリストの今井 晶也様にお越しいただき、営業支援を行っている自社の営業メンバーをどのように育てているかお話を伺っていきます。
【中編】では、実際にセレブリックス社が実践されている事例を挙げながら、 “常に目標達成できる営業チームの作り方”を見ていきましょう。
■イベント実施日
2023年5月18日(木)
■スピーカー
株式会社セレブリックス
セールスカンパニー
執行役員 カンパニーCMO兼セールスエバンジェリスト
今井 晶也 氏
セールスエバンジェリストとして、法人営業に関する研究、執筆、基調講演などを全国で行う。
2021年8月 “Sales is 科学的に「成果をコントロールする」営業術 ”を扶桑社より出版。
営業本のベストセラーとして累計出版数が 5万部を超える。
2022年7月 単著二作目として “お客様が教えてくれた「されたい」営業 ”を出版。
現在は執行役員 CMOとして、セールスカンパニーのマーケティング、営業、新規事業、事業推進を管掌する。
株式会社ナレッジワーク
ビジネスユニット フィールドセールス
桐原 理有
2004年 株式会社ワークスアプリケーションズ入社。大手法人営業に 14年間従事。売上合計金額・顧客単価は、当時の同社史上最高を記録。
2022年 スタートアップ 2社にて執行役員を務めた後、 株式会社ナレッジワーク入社。フィールドセールスに従事。
目次[非表示]
「三種の神器」で売れる人と売れない人の差を作らない
ナレッジワーク 桐原:【前編】では、営業力を強化するためにはセールスイネーブルメントが有効であることをお話させていただきました。そして今回は、セールスネーブルメントのノウハウとして、セレブリックス様の事例をもとに “常に目標達成できる営業チームの作り方”を今井さんにお伺いできればと思います。
セレブリックス 今井氏:前回、少しお話しさせていただきましたが、弊社の営業チームをサポートし、教育しているのは“事業推進部”です。
詳しく説明しますと、セレブリックスという会社はセールスカンパニー(営業支援事業)とHRカンパニー(人材支援事業)に大きく分かれています。私が所属しておりますセールスカンパニーは、主に法人の営業活動支援やお手伝いを行っている事業部です。本日お話しする内容はすべてセールスカンパニーの事例やケースとなります。
では、このセールスカンパニーがどのような組織に分かれているかというと、3つの事業組織と2つの機能組織に分かれています。事業組織は営業代行のインサイドセールス(アポイントを獲得するまでの代行業)、商談までを含めた営業代行(カスタマーサクセス)、営業コンサルティング(営業のノウハウを提供する)の3つです。
そして、この事業の受注を取るための「マーケティング」と、もう1つの機能組織である営業代行や営業コンサルティング事業をより強固なものにし、競合相手が真似できないものを身につけるためのサポート・教育が「事業推進部」となります。
ちなみに、事業推進部は20〜30名ほど在籍しており、このメンバーで500名ほどの営業代行・営業コンサルティングの方々をサポートしたり、品質を高めたりしています。
ナレッジワーク 桐原:事業推進部のメンバーの方々が日々アウトプットを出されながら営業組織の生産性を高め、お客様に価値を届け安い体制を作っていらっしゃると思いますが、どのような仕組みで組織のパフォーマンスを高めているのでしょうか?
セレブリックス 今井氏:初期教育の観点で言いますと、未経験層を1年で立ち上げるための研修としていくつか用意をしているものがあります。
私共が初期教育として意識しているのは、顧客開拓メソッド、Nカレッジ、シェアアプリの3つから成る「三種の神器」です。(※下図) この3つでできる限り、売れる人と売れない人の差を作らない、成功の再現性を高めるという取り組みを行っています。
なかでも、顧客開拓メソッドが私共のコアになるものです。セレブリックスはこれまでの25年間、営業代行として酸いも甘いも、企業規模も商品もさまざまなものをお客様の代わりに売り、売れなかった実績もあります。
その中で経験した営業の成功例と失敗例のノウハウをすべて言語化したテキスト 約300Pを用意しており、毎年バージョンアップしています。
顧客開拓メソッド 〜「とはいえ」は教育現場でのNG言葉〜
ナレッジワーク 桐原:顧客開拓メソッドは営業のノウハウを体系化したメソッドということですが、具体的にどのような内容がテキストに書かれているのか、ぜひ教えてください。
セレブリックス 今井氏:トップセールスが行っている習慣行動やコミュニケーションの取り方、お客様のコミュニケーションスタイルに合わせた対応の仕方、IRを見て営業の準備をする方法、お客様が話しやすくなるためのアイスブレイクの仕方、お客様がまだ気づいていない課題(インサイト)にたどり着くための質問のステップなど、営業に必要なものをすべて言語化しています。教育する側も教育される側もこのメソッドに基づいて、自分をバージョンアップしていくという形を取っているのが大きな特徴です。
ナレッジワーク 桐原:顧客開拓メソッドはいつぐらいから使用されていたのでしょうか?
セレブリックス 今井氏:私が入社した頃(2008年)にはすでに存在していました。創業時は“顧客開拓メソッドを作ります”という営業コンサルティングを行っておりましたので、最初はセレブリックスのノウハウというよりも、お客様ごとにメソッドを作っていくという支援がベースでした。
今の形になったのは2017年、私が担当させていただいた新卒研修からです。営業コンサルティングや営業のプロフェッショナルと発言しているセレブリックスが、自社のメソッドを辞書のように索引できる状態にないのはおかしいだろうという疑念がきっかけでした。
ナレッジワーク 桐原:今井さん自身、これまで多数の新人教育をされてきたと思いますが、経験上、教育をする上で特に重要なことは何だと感じられますか?
セレブリックス 今井氏:私自身、教育をする上で「とはいえ」という言葉は言ってはいけないと思っています。「とはいえ、実際の現場ではこういうやり方になっているから〜」など、“とはいえ”という言葉を減らすことが教育のリアリティにおいて非常に重要です。
そのようなこともあり、“今現場でそのまま使用できるメソッドにならなければならない”というところで、急ピッチでメソッドを作り、2017年の新卒研修で実施しました。それを毎年カスタマイズしています。
ナレッジワーク 桐原:いろいろなお客様や業態など、それぞれでの領域で営業の仕方も変わると思いますが、その共通事項がメソッドに集められているということでしょうか?
セレブリックス 今井氏:それに近いものではありますが、実際に“こうやればうまくいく”という成功のノウハウをまとめるのは不可能だと思っています。
やはり業界によって商習慣が違いますし、マーケティング・営業部・情報システム部に営業するのか、営業相手が企業の社長様や担当者様かなどいろいろな違いがあるので、正解を求めるという唯一解は営業にはありません。
ただ、私共がこれまで1万2000商品以上の営業代行を行ってきたなかで判明したことがあります。それは、“やってはいけないことは同じである”ということ。つまり、やってはいけないことを可視化できれば、売れる確率が高まるメソッドになるという考え方があります。
ナレッジワーク 桐原:なるほど。お客様の買わない理由を潰していけば、営業の成果を一定の水準まで高められると。
セレブリックス 今井氏:まさに、顧客開拓メソッドのテキストタイトルにも記載されている「顧客の買わない理由を科学する」という言葉そのものを表しています。このメソッドは、お客様が買わないと決めた理由をなくしていくレシピですね。
やっていけないことをまとめること自体は皆さまでもできることだと思いますが、間違っている方法とうまくいっている方法というものは、その会社のなかでそのように感じていることであり、実際にほかの会社でも同じことが言えるかどうかは証明されません。その判断軸やほかのケースと照らし合わせることができるかどうかが、実は結構大事なポイントでもあります。
なので、社内でメソッドを作る場合は、社内事情に精通している人たちやトップセールスだけで作らないほうが良いでしょう。なぜなら、社外の人たちからは「そういうやり方をやっているんだ!」「そういう工夫をされているんだな」とイレギュラーな部分に気づけますが、社内では習慣になっている恐れがあるからです。
自分の会社のなかでは当たり前のことでも、第三者から見ると何のためにやっているのかわからないこともあります。そういうことに気づけない限り、網羅性のあるメソッドは作れないでしょう。
アウトプットの作り方は“調査”と“解析”
ナレッジワーク 桐原:たとえば、セレブリックス様のようなメソッドを初めてまとめることになった際、最初にどのようなアクションを取れば良いのでしょうか?
セレブリックス 今井氏:やはり最初に行うべきなのは、調査です。売れている人と売れない人、どちらとも見る必要があります。今であれば、営業に同行すると演技される可能性があるので、商談の動画を見せてもらうと良いかもしれませんね。
おそらく経験された方も多いと思いますが、若手の頃は上司が同行するとなると上司が好きな自分を演じてしまいます。そこに“答え”はないので、商談中の動画を見せてもらったほうが良いでしょう。
また、実際に私たちがメソッドを作る際は親しくさせていただいているお客様にご協力いただき、セレブリックスのなかで優秀な人材を数名集め、同じ環境で同じ準備を行い、同じ企業様に対して商談を行いました。
そのときによく使う言葉や質問、違うこと、最終的に見つけられたこと、見つけられなかったことを音声と文字で解析し、トップセールスたちが行っている共通項を探りました。
さらに、セレブリックスの一定水準スキルアップのために、このメソッドの試験も行っています。リーダー職などに昇格するためには、顧客開拓メソッドの認定資格試験に合格しなければなりません。そこで、セレブリックスでは、この試験で昇格できなかった人たちの音声データも解析しました。
弊社の顧客開拓メソッドには、その解析データも含まれています。
「Nカレッジ」と「シェアアプリ」の活用
ナレッジワーク 桐原:続きまして、初期教育に必要な「三種の神器」の2つ目「Nカレッジ」と、3つ目の「シェアアプリ」についてお話を伺えますでしょうか。
セレブリックス 今井氏:はい。「Nカレッジ」を簡単に説明しますと、CX公式オンライン学習システムのことです。弊社の役職制度において、若手・ジュニア層である“N職”のための大学という意味で「Nカレッジ」と呼ばれています。
上司が新入社員に教えてあげられることはすべて移動時間でチェックできるように動画とパワーポイントでまとめ、いつでも学びたいときに自由に学べる状態にしているのが特徴です。だいたい、公式のものでも74コンテンツほど用意しており、たとえば業界理解、スプレッドシートの活用法、名刺交換の仕方などがあります。
基本的に、メンバーから上司に尋ねることが多い質問や行為は、このような動画やパワーポイントというコンテンツにしていくのが大事かなと思っています。ちなみに、公式のもの以外にも、キャッチコピーの作り方などのサブコンテンツも用意しています。
そして最後の「シェアアプリ」ですが、“個人のなかに蓄積されているノウハウをアウトプットすることがカッコいい”という文化を作っています。
たとえば、“手紙の書き方”は世の中に溢れていると思いますが、「和紙と洋紙どちらが開封率が上がるの?」「限定品の切手と普通切手で開封率は変わるのか?」「進展がある場合とない場合はどうなるの?」など、実験的に行っている過程を記録しているものは少ないのが現状です。
セレブリックスではさまざまなプロジェクトで試しているので、その過程を記録し、誰でも見られる状態にしています。もちろん、これは私共がさまざまなプロジェクトに携わっているからできることではなく、個々のノウハウをアウトプットすることはほかの企業様でも可能だと思っています。
セールスイネーブルメントのための「ナレッジワーク」
ナレッジワークはみんなが売れる営業になるためのセールスイネーブルメントプラットフォームです。
セールスイネーブルメントに必要な「ナレッジ領域」「ラーニング領域」「ワーク領域」「ピープル領域」をシステムを通じてオールインワンで提供しようとしています。
また、システムの提供だけではなく、セールスイネーブルメントの豊富なノウハウや事例をコンサルタントが併走しながら提供しています。
ナレッジワークを導入すれば、セールスイネーブルメントの経験のある営業企画担当や外部のコンサルタントを必要とせずに、営業組織にセールスイネーブルメントの仕組みを埋め込むことが可能です。
既に国内の大手企業や中堅企業が、ナレッジワークの導入を通じてセールスイネーブルメントに取り組み、営業活動の効率化や営業成果の向上といった成果を生み出しています。