いま求められる営業DX - 営業データを活用したマネジメント&組織論 後編
現在、日本企業の営業生産性は国際水準と比べても低い水準にあります。
日本の営業組織における課題として、属人的な営業活動や非効率な商談準備、勘や経験に基づく戦略マネジメントなどが上げられます。そのため、日本の営業組織が最も注力すべきポイントは、営業DX(営業のデジタル化)です。
本セミナーでは、ウイングアーク1st久我氏をお招きし、CRMやSFAのデータ活用によるマネジメントや組織論をテーマに、いま求められる営業DXの実現方法について伺いました。
■イベント実施日
2023年1月27日(金)
■スピーカー
ウイングアーク1st株式会社
執行役員 マーケティング本部 本部長
久我 温紀氏
ウイングアーク1st創業時に事業へ参画。法人向けソフトウェアのアカウントセールスとして5期連続トップセールスを達成し、マネージャーに最年少で就任。成績不振の営業部門の再建に関わり全部門予算達成を実現、過去最大の事業成長を牽引する。2016年 営業統括責任者に就任。2017年 経営戦略担当を兼任し、2018年よりマーケティング統括責任者。2019年9月より現職。セールス&レベニューエヴァンジェリストとして、メディアへの寄稿や講演等を行う。
株式会社ナレッジワーク CEO
麻野 耕司
2003年、慶應義塾大学法学部卒業。株式会社リンクアンドモチベーション入社。
2016年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」立ち上げ。
2018年、同社取締役に着任。
2020年4月、株式会社ナレッジワークを創業。
著書:『NEW SALES』(ダイヤモンド社)、『THE TEAM』 (幻冬舎)、『すべての組織は変えられる』(PHP研究所)
目次[非表示]
- 1.ウイングアーク1st社が営業組織で目指している状態
- 2.ウイングアーク1st社が課題解決のために取り組んだこと
- 3.課題を改善した後の状態
- 4.ウイングアーク1st社が活用している管理システムのダッシュボード例
- 5.ウイングアーク1st社が管理システムを活用する営業活動で感じた利点
- 5.1.コミュニケーションの質の向上
- 5.2.チームワークの向上
- 5.3.組織の機動力の向上
- 5.4.業務負担の軽減
- 5.5.組織の武器の強化
- 6.管理システム導入後のウイングアーク1st社の変化
- 6.1.組織のパフォーマンスの変化
- 6.2.役割分担の変化
- 6.3.社内で活用しているシステム・ツールのイメージ
- 7.ウイングアーク1st社のデータドリブンによる組織変革まとめ
ウイングアーク1st社が営業組織で目指している状態
ウイングアーク1st 久我氏:弊社では「案件管理の徹底→正確な状況把握→根拠に基づく方針策定→PDCAサイクルとシステム化→リアルタイム性の向上→営業組織のパフォーマンス改善」を営業組織の目指すべき状態として仮説立てしました。
ウイングアーク1st社が課題解決のために取り組んだこと
ウイングアーク1st 久我氏:目指すべき状態に向けた具体的な取り組みとしては、
- データドリブンで達成したい目標を明確にする
- 必要なデータを収集・分析できる状態を整える
- データに基づき意思決定するプロセスを定着させること
を行いました。
データドリブンで達成したい目的を明確化
ウイングアーク1st 久我氏:まず、弊社はデータドリブンによって達成したい目標を「売上目標の達成・パフォーマンス向上」「正確な状況をリアルタイムに把握し、マネジメントを可能にする」の2つに設定しました。
- 売上目標の達成・パフォーマンス向上
- 正確な状況をリアルタイムに把握し、マネジメントを可能にする
必要なデータを収集・分析できる状態の整備
ウイングアーク1st 久我氏:そして、必要なデータを収集・分析できる状態をつくるため「売上構造を再点検し、組織の役割と管理指標を定める」「必要なデータ収集の仕組みを決定(ツールやシステム化の検討)」「システム導入や運用を含めた専任体制を構築」の3つに取り組み、データ収集・分析の基盤を構築しました。
- 売上構造を再点検し、組織の役割と管理指標を定める
- 必要なデータ収集の仕組みを決定(ツールやシステム化の検討)
- システム導入や運用を含めた専任体制を構築
データに基づき意思決定するプロセスを定着
ウイングアーク1st 久我氏:さらに、データに基づき意思決定するプロセスの定着化を図るため、以下のような取り組みを行いました。
- Excelの管理、PowerPointの報告を廃止
- ダッシュボードの数字に基づき意思決定を行う
- 営業の週報の自動化、必要データを経営~現場へ日次で自動配信
もともと、Excel・PowerPointで運用・報告していたものをすべて撤廃し、経営会議の場で数値の進捗状況を見るのをダッシュボードに集約。ダッシュボードのデータソースがSFAやCRMに入力しないと見られないようになっているので、データを入れて初めて営業活動の進捗報告ができるという仕組みに切り替えました。
当初は入力してくれない営業もいましたが、半年〜9か月かけて徹底した結果、ほぼすべての組織でツールへの入力を定着させることに成功しています。
課題を改善した後の状態
ウイングアーク1st 久我氏:これらの取り組みを行った結果、インプットされた情報をもとにダッシュボードを見ながらオペレーションを回すといったシンプルな数値報告がなされるようになりました。
ウイングアーク1st社が活用している管理システムのダッシュボード例
ウイングアーク1st 久我氏:実際に弊社で活用している管理システムのデモ画面を見ていただきたいと思います。
Sales KPI
ウイングアーク1st 久我氏:1つ目はSales KPIのダッシュボードです。グラフからは、今年と昨年の受注とパイプラインの動きを確認できます。
手前の棒グラフが今年の受注とパイプラインの推移、後ろの面図見グラフは昨年の動きを示しています。これを見ると、期初の段階で今年の受注は昨年よりも多く(青:受注)、かつパイプラインで見ても同様に、今年の方が多いことがわかります(赤:パイプライン)。
また、横軸はウィークリーのデータになっており、こういったものを見ながらオペレーションをすることで、組織の状態がよりわかりやすくなるため、マネジメント側もPDCAを回しやすくなります。
「昨年と比べてどのくらい受注が増えたか」「今期の見込み商談数は後どのくらいか」などをデータから読み取ることで、自社が置かれている状況をより的確に把握し、迅速な対応が可能になります。
活動成果管理
ウイングアーク1st 久我氏:2つ目は、活動成果のダッシュボードです。グラフからは、先週一週間の営業活動成果を確認できます。
「先週の売上はいくらあったか」「新規登録された案件がどのくらいあったか」「失注・中断がどれくらいあったか」などを可視化することで、先週の動きはどういったアウトプットにつながっているのかを把握することが可能です。
たとえば、活動件数が多くても、受注や新規の商談、失注・中断がなく、案件に動きもないといった状況であれば、空回りしているのではないかという仮説が立てられます。こういった仮説から具体的な改善策を考え、営業活動のPDCAを回すことで、組織全体のパフォーマンス向上につなげています。
ナレッジワーク 麻野:こういったデータは、SFAやCRMにシステムをつないで表示させているのですか?
ウイングアーク1st 久我氏:はい、その通りです。弊社が持っている製品はまさにそれを実現できるBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールで、SFAやCRMのデータを直接取得できるので、そこからデータを自動連携させているイメージです。
その他にも、受注だけが切り出されたグラフや、失注・中断の推移がわかるグラフ、マーケティング施策ごとの費用対効果を可視化できるグラフなど、あらゆるダッシュボードを活用して、組織内で情報を共有しています。
部門によって見るべき指標も異なるので、それぞれの部門に合ったダッシュボードを見ながら日々のPDCAを回しているといった状況です。
ただし、ダッシュボードの数が増えていくと、それを自発的に見に行くだけでもストレスになり活用度が下がってしまいます。そのため、プッシュ配信で毎日定刻に経営陣、営業マネージャー、営業全員に同じ指標が届くようにしています。これにより、組織の状態を全員がリアルタイムに把握できるようになりました。
ナレッジワーク 麻野:まさに「見える化」ではなく「見せる化」ですね。
見える化していても、能動的にマネージャーが見に行かなければならないと、見ないマネージャーはPDCAが回らないことがよくあります。
このように見せる化することで、確実に目につくので、それで改善効果が生まれるというのは期待しやすいですね。
ウイングアーク1st 久我氏:そうですね。後は、マネージャーに代わりボットが定期的にレポートを配信してくれるという便利な機能もつくりました。
これは、ボットに必要なデータを打ち込むと、自動でダッシュボードを返してくれるという機能です。データを引き出しやすくしたことで、全員がデータを使える状態になったと感じています。
ウイングアーク1st社が管理システムを活用する営業活動で感じた利点
コミュニケーションの質の向上
ウイングアーク1st 久我氏:データを活用することで社内コミュニケーションの質を高められると実感しています。
コンサルティング領域では、物事をロジカルに考える際の手法として「空・雨・傘」といったフレームワークがよく使われます。「空が曇っている(事実)→雨が降りそう(解釈)→傘を持っていくべきだ(対策と判断)」というように、目の前にある事実から先を予測し、対策を練ることで問題解決に導くためのものです。
社内会議の場においては、今置かれている自社の状況が不明瞭だと的確な予測ができず「ああでもない、こうでもない」と無駄な議論が行われがちです。
しかし、データが整理・可視化され状況がわかると、何が課題かが明確になります。これにより、「今後どうするべきか」を考えることから議論をスタートさせることができるため、会議の時間を有効に使えるようになったと感じています。
チームワークの向上
ウイングアーク1st 久我氏:データを活用することで、チームワークの向上も実感しています。どこで何が起きているかがわかると、自立的に助け合う機運が生まれます。
たとえば、営業のパイプラインが急激に減ったとき、他のチームがリアルタイムで状況を認識し、各チームがサポートできることを考えたり、助け舟を出したりできるようになりました。
これまでは、状況がわからないがゆえにチームがもつれていくことがありましたが、データの活用により自立的な組織連携を生み出し成果を高められていると実感しています。
組織の機動力の向上
ウイングアーク1st 久我氏:また、データの活用により組織の機動力も高められています。
データから得られる情報は根拠とエビデンスが明確なため、それを起点にPDCAを回していく、もしくはOODAループのように素早く状況を見ながら組織の機敏性を高めていく、こういった動き方ができるようになったと感じています。
業務負担の軽減
ウイングアーク1st 久我氏:データを有効に活用することで、現場の業務負担を減らすことも実現しています。
これまでは、週報をメールで送っていましたが、すべてSFAに入れれば自動でデフォルトをつくれる仕組みにしたため、業務を省略化できています。他にも、集計分析作業や指示・通達、単純な問合せなども自動化させました。
かつ、数字確認のためだけの会議や効率の悪い活動、空中戦の応酬を廃止し、組織全体にかかるストレスも軽減できている状態です。あらゆる作業を自動化したことで、コスト削減にも確実につながっています。
組織の武器の強化
ウイングアーク1st 久我氏:管理システムにデータを蓄積させていくことで、組織の武器にもなっています。弊社の場合、2014年からのデータが蓄積されているので、期初に必要なパイプラインの品質や量をある程度機械的に算出できています。
キャパシティプランの設計をする際「どこのマーケットに、どのような人員を、何人くらい配置すると、どれくらいの売上が見込めるか」は、ナレッジとしてどんどん貯まっていきます。こういったナレッジを活用することで、弊社では組織のマネジメントの品質を向上させています。
また、通話やWeb会議をすべて録画し、その情報を新人教育にも活用しています。
管理システム導入後のウイングアーク1st社の変化
ウイングアーク1st 久我氏:管理システムの導入は、組織のパフォーマンスに変化をもたらしました。
組織のパフォーマンスの変化
ウイングアーク1st 久我氏:集計分析などの事務作業が自動化されたことや、情報共有と意思決定プロセスが迅速に行われるようになり会議効率が向上したことで、報告作業に要していた時間を7,500時間減少、会議に要していた時間を1,500時間減少しました。
さらに、売上は110%増え、翌期のパイプラインも135%増加。これにより、良い形で期初をスタートさせられる状態になりました。これは、管理システムの導入により、営業担当者の活動時間が増加し、それに伴って商談数や受注数が大幅に増えたことで得られた結果です。
役割分担の変化
ウイングアーク1st 久我氏:管理システムの導入により、情報システム部門と営業部門の役割分担にも変化がありました。
以前は、営業部門が使うシステムを情報システム部門が用意するといった流れで、システム導入が行われていました。要するに、情報システム部門はアプリケーションの「提供者」、営業部門はアプリケーションの「利用者」といった役割分担です。
しかし、情報システム部門が用意したダッシュボードでは、営業部門側からすると「見たい視点と違うため使いづらい」といった課題がありました。
そこで、弊社はクラウドサービスの活用により営業部門が自ら仕組みを構築できるように、そして情報システム部門はITの専門性を活用したプラットフォームの提供と運用ができるようにと、両部門の強みを活かした役割分担を構築しました。
社内で活用しているシステム・ツールのイメージ
ウイングアーク1st 久我氏:データ活用のシステムには、自社製品のデータ活用プラットフォームを活用し、データドリブンを徹底して行っています。
さまざまなデータを統合し、そのなかで設定したものによって集計分析をオートメーション化しています。かつ、可視化やレポート作成・配信を自動化するなど、資料作成の工数削減を実現しています。
ウイングアーク1st社のデータドリブンによる組織変革まとめ
ウイングアーク1st 久我氏:レベニュープロセスを可視化していくことで、マネジメント品質を上げていけるというのが実感としてあります。また、データドリブンの組織マネジメントをいかにつくっていくかという観点では、経験・勘・度胸に加えてデータやエビデンスを活用していくことが意思決定の高度化を図れると思います。
そして、業務の自動化・省人化を実現し効率化するだけでなく、リアルタイムで状況を把握することでマネジメント品質を上げることができます。
このように、データドリブンを有効に活用することで、確実に組織パフォーマンスを上げていけることが、弊社自身の気づきにもなっています。
ナレッジワーク 麻野:ありがとうございます。データ活用は「総論賛成」だけど「各論反対」といったことも多いと感じますが、今回のお話で具体的なイメージが湧きました。
今回は営業DXというテーマでお話を伺いましたが、データ以外の部分で営業DXや営業組織変革に有効だった取り組みはありますか?
ウイングアーク1st 久我氏:そうですね。当時はいろいろな取り組みを行っていましたが、そのなかでも組織文化の変革に注力していました。当時の営業部門は「負け癖」がついており気持ちで負けていたように思います。それを変えるために、営業組織のチームを新たにつくり、そのなかでこれからの営業を明文化していきました。
また、現在は「ナレッジワーク」を活用し、教育の変革にも取り組んでいます。労働人口が減り営業人材の流動性が高くなるなか、新しい人材が自社の商材をしっかり提案できるように育成していくことが重要。そのために、ナレッジワークの活用は有効なものだと感じています。
ナレッジワーク 麻野:最後にナレッジワークのことについても触れていただいてありがとうございます。今回は様々なお話をお伺いでき、大変勉強になりました。